言いたいことは完結に。

Compactly Completed Comics

キレイな世界の裏に、楽園に迎えられる者と追放された者の格差社会が見える。

悪魔とラブソング 13 (マーガレットコミックスDIGITAL)
桃森 ミヨシ(とうもり みよし)
悪魔とラブソング(あくまとらぶそんぐ)
第13巻評価:★★☆(5点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

目黒がアメリカへ行って半年。マリアのそばで音楽PVを録り続ける優介は、気持ちが揺れ…。一方、進路に迷うマリア。みんなの悩みや想いを乗せ、最終章・ラブソング編に突入! 感動の最終巻です!! 【収録作品】悪魔とラブソング番外編 みつきめ。―3ヶ月目―

簡潔完結感想文

  • あれから半年。恋人との別離の傷をYouTuber活動で埋めるマリア(嘘)
  • 進むべき道。3年生に進級し進路の問題に直面。親と祖父母で4者面談⁉
  • 歌おう。歌は伏線の無回収も人物の永久追放も、問題を全て浄化する。

100%の悪意から物語が始まり、100%の善意で終わる 最終13巻。

『13巻』は幸福感に満ち満ちている。
…と、書くことも出来るが、私はムードに流されなかった。
愛、輪、つながり など前向きな言葉で何かを糊塗しているように思えた。

ずっと主人公のマリアに

世界を肯定する「ラブリー変換」に溢れた作品を、
お前は否定しようというのか。
性格が悪いんだな。

と背後から囁かれているような居心地の悪さを覚えた。


れは きっと『13巻』がキレイ過ぎるからだと思う。
あれだけ周囲から反発されていたマリアの世界が人工的過ぎるのだ。

そうなったのは作品が臭いものに蓋をしたからである。
扱いの難しい人物や物事はマリアの視界から ことごとく排除した結果である。

本書で一番の嫌われ者であろう嫌味な教師の姿が
『13巻』の中で一切ないのが不自然さの表れのような気がする。
(3年生に進級して担任が変わったという理由もあるだろうが、もっと作為的だろう。)

来客・来賓の際にだけ周辺環境を整えるように、本来とは違う世界の在り方なのだ。

その点、かつてのイジメの主犯格・中村 亜由(なかむら あゆ)は良い位置にいる。

人付き合いを理解していなかったマリアが歩み寄り、
亜由は本音をぶつけることで憎しみが薄れていった。

彼女はマリアが自力で広げた世界の輪の象徴的存在だろう。
ただし、亜由に関しては自分のしたことへの後悔の描写が欲しかった。
マリアに対しての負い目、自分の幼さへの羞恥を少しでも挿めば
彼女の存在がより立体感を増したのではないか。

また同じく本音で ぶつかった甲坂 友世(こうさか ともよ)もマリアの傍にい続けた人物である。

最終巻で いきなり彼女たちの友情エピソードが出てきたのには面をくらった。
もう少し早い段階で友情を深めた方が良かったのではないか。

というか「クロス編」も その前の「あんな編」も置き去りにされてましたよね、2人とも。


して男ども(笑)
目黒 伸(めぐろ しん)・神田 優介(かんだ ゆうすけ)・黒須 申太郎(くろす しんたろう)の3人。

彼らはマリアが自力で広げた輪というよりも、
彼らが輪の維持を助けてくれた、と言った方が適当だ。
そして その理由は色恋である。

となると実質、マリアが自力で獲得したのは女友達2人だけか。
(それも目黒と神田のアシストありで…)

マリアの周辺の人物たちが「由・甲・申」の字を持つ、
「申し子」たちで構成されているのは作者の狙いだが、
かえって その輪の閉鎖的な側面が悪目立ちしているように思う。

それによって世界の輪には選別があり、
そして明確に待遇の差があることが証明されてしまった。


じ「申し子」でも、その1人・申利(もうり)あんな は輪から排除された。

これはマリアの問題ではなく、さらに上級神である作者の御力だろう。
神の手に余る人間だったので、海外に飛ばされた。

あんな の親友という絶対的な地位を用意されながら、『13巻』でも名前だけの登場となる。

不人気な話で、不人気キャラの烙印を押されてしまったが、
マリアが彼女と再びつながる話を読みたかった。
というか、その友情の再生を描かななければならなかった。
マリアの輪が広がりきらなかった一因だと思う。

ちなみに追放の地・広大なアメリカで目黒と再会したらしい あんな。
あまり本気とは思えなかったが、目黒への想いは どうなったのだろうか。

片想いが行方不明になるのも本書の特徴ですね(あんな・甲坂など)。

そして あんな追放によって、マリアの周囲がイエスマンばかりになる弊害が出た。

ただし、最終回の最終ページ、マリアのクロスの中の7人の男女の集合絵には入っている。
さすが「申し子」のことだけはある。
このことは彼女の明るい未来を予感させるものかもしれない。


当に追放されたのは井吹(いぶき)ハナ。
名前にその字を持たないばかりに、汚名を返上する機会もなく存在がないことに。

マリアはハナとの関係性を「悪友」と名付けたにもかかわらず、
それが意味することが分からないまま「合唱コンクール編」が終了。

そして終了と同時に(正確にはその直前から)ハナは一切描かれない。

マリアに対抗するだけの知恵と、口が達者なものは表舞台から姿を消す。

そうしてマリアに都合の良い世界が出来上がるのだ。
こういう権威主義のような作品の佇まいが、私は好きになれなかった。


一方で汚いものがキレイなものに「ラブリー変換」するものもある。
それがマリアの身内たち。

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多少の ぎこちなさ で済む、加害者と寛大すぎる被害者家族。私なら首絞めちゃうかも♥

その罪も過去も、まるでなかったかのようにキレイな関係性になっている。
特にマリアの父であるジョンと、彼女の祖父母との関係は受け入れがたいものである。

3年生に進級し、今後の進路を身内に相談する際に、彼らは同じテーブルにつく。

彼らの再会から半年余りの時間が流れているものの、
相手は娘を凌辱し、その人生を捻じ曲げた男である。

この お花畑な関係性には私はついていけない。
彼らも作者も頭のネジが外れてるんじゃないかと思った。

こんなに都合よく気持ちが通じ合える世界なら、
マリアは最初から苦労していないだろう。
作品との整合性がないことに唖然とする。

あんな が世界にカムバックできなくて、なぜ彼らが同席できるのか?
こういう点もマリアのために用意された世界だと思わざるを得ない。


また、マリアが自分が加害者かのような振る舞うのも疑問だ。
『9巻』でもマリアの才能に逆恨みされ、首まで絞められたのに犯人に罪悪感を覚えていた。

今回も自分が母の記憶を封印していた間も、みんな(父や祖父母)は苦しんでいたから
その つぐないをしたい、という謎の理論を持ち出す。

無自覚に支えられていたことへの恩返しなのだろうが、
彼らの方にも十分な非があるのだ。
まだトラウマから解放されていないのだろうか…。

ちなみに父の「息子」である黒須とは姉弟の関係に落ち着きます。


して 最後にキレイになるのは目黒。

目黒がアメリカに行って半年。
高校3年生となったマリアたちは進路を考え始めながら、
着々と童謡系YouTuberになっていく(笑)
2011年前半での活躍は、あのヒカ キンさん より早いのではないか。

なんと「申し子」たちは童謡PVのスペシャリストだったのだ!
衣装・メイク・振付・撮影を各自が担当し、人気を博し始める。
序盤あんなに暗い話だったのが嘘のようだ…。

そこから、神田、亜由、甲坂、黒須申太郎と、「申し子」の個人回が続く。
これは輪が繋がっている表現か。

ただ上述の通り、「合唱コンクール編」よりも輪が閉じられている印象も受ける。
学校内でマリアは特定の人(目黒を除く申し子の4人)しか会話してない。
1年時のクラスメイトはキャラ設定を色々作っているのだから、
彼らをどこかに出せばいいのに(もちろんハナも)。


いもよらぬ目黒との9ヵ月ぶりの再会。
目黒は青臭さやネガティブが消失してキレイになっていた。

大人の落ち着き さえ身に付けて、もはや別人のようである。
男子、三日会わざれば刮目してみよ、だろうか。
目黒の葛藤や成長過程も見てみたかったなぁ。

目黒が動じない男になってしまったので、
劇的な再会も、感動も抑えた表現となる。

一皮むけた目黒は、この恋愛は絶対に大丈夫という確信を得る一方で、
最終回前後の盛り上がりに欠ける要因になってしまった。


演奏者を得たことで、マリアは初めて路上ライブを敢行。
今回は仲良し6人組で(但し神田は撮影者)。

このユニット名は きっと、
「マリアと愉快な申し子たち」だろう。
結局、マリアが世界の頂点なんです。


終回は、神田の恋心の決着となる。

神田、何回目かの告白(4回目か?)。
もちろん、ラブリー変換してしまうんだけど、過去最大に想いがこもっている。

対するマリアも変換に変換で応えて成長を感じる。
こういう優しいスルーも世界を円滑に進める手段だろう。

神田は最後まで観察者であり、2人を繋げる架け橋であった。
きっとファン投票したら目黒より神田の方が獲得票が多いだろう…。


マリアの目黒への提案への答えも彼女らしい。

浮気をしようと提案する黒須の誘惑への答えもそうだったが、
いつだって自分が胸を張っていられる自分でいること、
それがマリアの生き方の指針なのだろう。

本当に「凛として きれい」である。

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胸キュン♥ でもサラッとこんなことを言えてしまう目黒は目黒じゃない気もするぞ…。

そして今更ながら俯瞰してみれば、前作『ハツカレ』と同じ構造であることに気づく。

ハツカレ』は仲良し4人組の四角関係を描いていたが、
本書もそれと同様と言える(目黒 ⇔ マリア ← 神田 ← 亜由)。

ハツカレ』では主人公カップルを成立させてから、
当て馬的存在・イブシくんが遅れての登場だったので、
彼氏のハシモトくんを先に読者は受け入れていた。

でも本書は目黒と神田は同時の登場で、
それゆえに神田の方が魅力的に見えてしまった人も多かったのではないだろうか。

作者は報われない恋をしている男性が好きなのだろうか。

どうしてもイブシや神田の方が魅力的になってしまうのなら、
次回作は三角関係の望みの薄い方と結ばれる
どんでん返しを結末にすれば読者も納得するかもしれない。

作者の5巻以上の作品も買い揃えてありますので、楽しみです。

悪魔とラブソング番外編 みつきめ。―3ヶ月目―」…
交際すると、「3」の付く月・年が転機になるという話だが、
3日目(『3巻』の番外編)も、3ヶ月目も上手くいっている2人は、
3年も30年も上手くいくのだろう。

でも神田の胸の痛みが本当になくなるのは何年目のことだろうか…。