言いたいことは完結に。

Compactly Completed Comics

名前に「申」が入っていることが仲間の証ですネ 申し子たちは手厚い待遇。

悪魔とラブソング 4 (マーガレットコミックスDIGITAL)
桃森 ミヨシ(とうもり みよし)
悪魔とラブソング(あくまとらぶそんぐ)
第04巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

人気者の井吹ハナがクラスに復帰。合唱コンクールを控え、クラスをまとめきれないマリアは、ハナに振り回されます。そんな中、本性を現したハナとマリアの間に大きな亀裂が!! だけどマリアは…。感動の合唱コンクール完結編です!!

簡潔完結感想文

  • かぁいい は正義。マリア以外にも特殊能力に目覚める。ラブリー直感 発動。
  • 語られる過去。一編の終わりを前に次の予告。変化した自分なら向き合える。
  • 黒くぬれ! 黒い制服も黒い心もラブリー変換すれば演出の一部になるから。

結編に疑問が残ってしまう 4巻。

本書は大きく分けて3つの編から成立しているが、
どれも完結の仕方が 微妙です。

自他を赦すことがテーマの一つだと思いますが、
赦し が物語からの排除や、存在の無視と同義になっているところがある。

何度も起きるマリアの受難に関してだけはスピード感があるのだが、
着地前後が軟着陸で、玉虫色に終わってしまう。

苛烈なマリアに対する苦しみだけでなく、
彼らとの歩み寄りや 赦しに もっと意味を持たせて欲しかった。

あらかじめマリアとその仲間たちに組み込まれる
名前に「申」を隠し持つ「申し子」たちだけじゃなくて、
他の登場人物との交流を もっと大事にして欲しかった。

じゃないと、マリアが肌身離さず身に付けるクロスの意味する
「永遠につづく きずな」が閉じられているように感じられてしまう。

唯一「申し子」以外で活躍するのが『4巻』で覚醒する中村 亜由(なかむら あゆ)。
「由」は「申」の縦棒が伸ばし切れなかった感じの漢字ですね。

追記:友人1号の甲坂 友世(こうさか ともよ)も「申」ではないのか。
   マリアの男性騎士たちだけが「申し子」で、女性たちは控え扱いか?

一番 気になるのは合唱編後半のキーパーソン・井吹(いぶき)ハナの今後の扱い。
マリアは新しい関係を模索し、悪友と位置付けたのに、それ以後は無視。
「申し子」じゃないからって、あんまりだ。

今後も彼女を登場させることが、マリアの変化や世界の広がりの証明になったと思うのに。
隅々まで神経が行き届いているとは決して言えない雑な世界観です。


して今回の「合唱コンクール編」では、担任教師の存在が しっくりこない。
そもそも彼の目的が何なのかが分からないのだ。

転校生であるマリアを目の敵にして、
彼女をクラスのスケープゴートに配置することによって、
教え子たちを扇動する一段上の立場を確立することは出来るだろう。

だが今回、彼は自分の描いたシナリオ通りにマリアを動かそうとして、
教え子たちまで侮辱し始めた。

以前から ちょっとずつ生徒に毒は吐いていたが
今回は あからさまに生徒を「悪魔」と蔑んだ。
(作中で悪魔を乱発しすぎて、もはやその言葉に価値がないが…)

クラスメイトたちには同調圧力や恋愛沙汰、
それぞれマリアによって暴かれた自分の姿から目を背けるため
マリアを攻撃してきたという理由がある。

でも担任には他生徒を罵倒してマリアを直接 攻撃する意味はない。

考えられるとしたら、テレビ番組の取材を利用した
この高校への志願者獲得の筋書きから逸脱することへの焦燥だろうか。

いや、彼にそんな愛校心や帰属意識はないだろう。

自分のクラス内での地位の回復よりも、
マリア個人を貶めることに目的や執着が変質したのだろうか。

狂っている といえばそれまでだが、
自分の最低限の居場所すらも放棄してまでマリアを貶めたい理由が見えてこない。

作品全体的に人の心の動きが特殊過ぎて共感しかねる。
作者はもっと読者に分かってもらう努力や技術が必要だったのではないか。
初期のマリアと同じく、自分の言いたいことを言っているだけではダメなのだ。


して、最後に担任教師が大暴れすることによって
ボヤけてしまった点が2つあるように思う。

その1つが、合唱コンクールを通じてのクラスの団結。

担任という「絶対悪」が登場してしまったことで、
生徒たちが自分たちで もがいて出場や抗議の表明などの行動選択をしなくなってしまったのだ。

物語の展開は担任の存在で劇的になったかもしれないが、
生徒たちが「絶対悪」を前にして協力しただけのように見えた。
結局、彼らは嫌うモノがなくてはクラスはまとまらない、という結論にも思えてしまう。

コンクールのマリアの一人舞台といい、
良い話風にまとめているけど、
本当にこれで良かったのか、と疑問が残り、心から感動できない。


そしてボヤけた点の2つ目は結末である。
これは上述のハナの指摘と同じ。

この担任教師に関しても存在を無視して次の話に進む。

読者が望むような勧善懲悪で 担任が社会的制裁を受ける訳でもないし、
マリアの奇跡を浴びたからといって改心もしない。
彼女と「申し子」たちが、彼を赦すというテーマすらない。

あるのは徹底的な無視だ。
愛の反対は無関心、ということだろうか。

担任もハナも、ただただ邪魔者という記号でしかなかった。

こうなるとマリアが舞台に一人立つ姿は気高いというよりも、
彼女だけが この世界に必要な人、という意味に取れてしまう。
作者や作品が「輪」なんて必要としていないのだ。


これまでを振り返ると、
マリアが登場する前の このクラスは ぬるま湯で、
一見、平和そうに見えて無気力に生きている生徒たちだった。

ならば彼女が行ったのは革命か。
マリアへの反発ではあったものの、自発的な行動を見せた。

そして担任は旧体制の象徴。
担任の暴言も特権階級の優越意識と読めなくもない。

しかし啓蒙によって生徒たちは目覚め、
権威による統治から、自治へと体制を変える…。


述の通り、ハナは作品から姿を消すが、
しぶとく生き残るのが中村 亜由。
さすが「申し子」のなりかけ である。

今回、クラスで初めてハナのキレイな言葉に疑問を投げかけたのが亜由である。

彼女が意識を変えたのには理由がある。

マリアの言葉は容赦がないが そこに本音がある。
一方で、口先だけで亜由のことを見ていないハナの言葉に気づく。

そして亜由は、担任の筋書き通りに、
マリアが頭を下げ、クラスメイトに歩み寄りを見せる場面でも欺瞞を感じる。

偽りの和解に彼女の直感は告げる。「可愛くない」と。
亜由の特殊能力は「ラブリー直感」でしょうか。
まぁ、もう二度と発動されることはありませんが…。

でも亜由が使う「かぁいい」に違和感があるなぁ。
作者は漢字変換も独特な気がします。


対するハナの反論も見事。
自分の言葉を消去しつつ、マリアの言葉を切り貼りして真実にすることで、
マリアに ある種のヤラセを認めさせることに成功する。

嘘を言っているわけではないし、
マリア自身が「人に好かれたい」という願望をもっているため、
否定はできず、それが肯定に受け取られる。
この頭脳プレイには感心させられた。

その後、そんな自分を認めて、
自分の目標を語るマリアは初めて「可愛く」見えました。
言動・表情から彼女の成長を感じる一コマです。

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ここが一つの到達点。過去を悔いるのではなく、未来の自分の理想形を描く。

リアがクラスの空気を一変させたことを悟ったハナは無表情に教室を後にする。
そのことで自分の計画が破綻することを悟った担任はマリアに逆上し襲い掛かる。

つくづくサイテーな教師ですね。

でも この場面、目黒 伸(めぐろ しん)は止めないで、
担任が生徒に暴力を振るってきたという事実を作って欲しかったなぁ。
カメラや第三者のテレビクルーもいるから証拠は揃う。

そんな計算高さよりも、目黒はマリアが痛い目を見るのは忍びなかったのだろう。


目黒は最初からマリア第一主義。
彼の視点から物語を読み返すと、ツンデレ遍歴がよく分かるだろう。

これまでも真摯な(ヘタレな)神田 優介(かんだ ゆうすけ)に比べて、
大胆な行動をとってきた目黒だが、
今回はキスを仕掛ける!

目黒にとって ありのままのマリアがラブリーだから、
彼女がラブリーになって男性人気を得ることに危機を覚えたのだろうか。

合唱コンクールが成功するかどうかの瀬戸際で、
恋愛漫画の一面も加速する。
予測不能な展開が面白いです。
担任曰く、目黒も「はみだし者」ですもんね。

目黒は神田と違って口数は多くないけど、
口に出す言葉に嘘がないところが特徴か。

天邪鬼ではあるが、結構真面目な恋愛観の持ち主である。

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ラブリー変換をせずに、愚直にラブを叫ぶ。これが神田との大きな差だろう。

そうしてマリアが意識し始めた目黒への独白が次の章へのブリッジになっている。
マリアがこの学校に来る前日譚、エピソードゼロである。

ここまででマリアに興味を持った人たちは読まずにはいられない。


唱コンクール当日は前述の通り疑問がいっぱい。

最終的にマリアの独唱にするのなら、
マリアが皆の前で1回も歌ったことが無くて、
その歌声を前にクラスメイトが圧倒され動けなくなったという演出の方が良かったような。
彼女の清らかな歌声が彼らを一つに繋ぐ最後のピースだったのだ。

でも、歌う前に舞台上に独りのマリアが、
舞台袖にいるクラスメイトに「歌おう」と呼び掛けているのに、
全員が動かないで、歌い終わった後に駆け寄るのは ちょっと演出が過ぎる。

それこそテレビ番組のヤラセに近い気がするなぁ。
一人また一人と歌声が重なっていく内容でも良かったのでは。

ただ、目黒は あの舞台でピアノを弾いてはいけない気がする。
なぜなら予想外の事態に緊張して失敗して、
その失敗を引きずってピアノから足を洗いそうだからである(笑)

彼の再生は また別の話に取っておいたのでしょうか。