言いたいことは完結に。

Compactly Completed Comics

数多ある作品の中から この本を選ぶ お前のセンス、嫌いじゃないわよ♥

悪魔とラブソング 1 (マーガレットコミックスDIGITAL)
桃森 ミヨシ(とうもり みよし)
悪魔とラブソング(あくまとらぶそんぐ)
第01巻評価:★★★☆(7点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

十塚学園は偏差値やや低めの共学校。ある日、県でトップクラスの聖カトリア女子を退学になったという転入生が…。彼女の名前は可愛マリア。退学の原因は「教師への暴力事件」。飾り気なく真っ直ぐな言動のせいで、マリアはクラスから孤立していき…。

簡潔完結感想文

  • 転校。「人を汚れさせる」自分を変えるため、まず周囲を信じようとする主人公だが…。
  • ラブリー変換。相手から読み取る直送の情報も脳で加工すればパッケージ化された商品に。
  • 嘘のない優しさ。ツンデレだって特殊能力で見抜かれちゃうが、反抗的な性格は治らない。

方の実力は こんなもんじゃないと思うわ(ラブリー変換)の 1巻。

この「ラブリー変換」が本書を通じてのキーワードで、
その造語の創作者・神田 優介(かんだ ゆうすけ)は その神髄を こう説明する

「ラブリー変換は きれいに生きる為のサバイバル術だ」。

例題を挙げると、
主人公・可愛 マリア(かわい まりあ)がお嬢様学校から転校してきた初日、
歯に衣着せぬ直截で、露悪的な彼女の物言いで雰囲気が悪くなったクラス内を、
神田が丸く収めるために自己紹介と親切な言動の先陣を切った。

だが そんな神田に対しても マリアは、
「たいして他人に興味ないくせに ムリして声かけなくていい」と一刀両断。

自分の演じていたキャラを言い当てられて困惑する神田だったが、
その言動から転校初日で早くも孤立が決定的になったマリアに「ラブリー変換」を伝授する。

前述のマリアの言葉を神田が変換すると
「その気もないのに やさしくすると誤解しちゃうよ?」と なるらしい。

分かるようで分からない「ラブリー変換」。

上司や先輩、しつこい異性など、
波風を立てると面倒な相手に対して 自分の気持ちを婉曲に伝える方法と考えればいいだろうか。

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何だか夜のお仕事の人に重宝されそうな「ラブリー変換」。オヤジ転がし術⁉

もう一つ具体例を挙げると、「あらすじ」が それにあたるだろう。
「十塚学園は偏差値やや低めの共学校」という文章は見事な「ラブリー変換」。

きっと「やや低め」どころではないだろう。
あからさまに悪し様には言わないギリギリのライン。
「やや」という抑え目な表現を使いながら、
「低め」ということを決して否定しない。

私の変換で よく使うのは「治安が悪い」という言葉です。
いうことで冒頭の私の一文を再変換しますと、
決して面白いと絶賛は出来ない微妙な出来の漫画だという趣旨である。

本書は作者の長期連載2作目。

短期連載から長期連載へと移行した第1長編『ハツカレ』とは違い、
おそらく最初から ある程度の長期連載を予定していた作品だろう。

ハツカレ』の大ヒットで連載期間が確保され、どうにか著者の当初の構想は描き切った様子。
(雑誌読者の投票結果が芳しくなく、泣く泣く割愛した部分もあるらしいが…)

残念なのは、明らかに話の出来に前半と後半で差があること。
特に最終盤の美談で押し通す一本調子には辟易とさせられた。

100%ピュアであれば良かった『ハツカレ』に比べて、
清濁併せ呑む内容の本書はコントロールが難しいことは分かる。

いじめ、合唱、友情、凄惨な過去、そして恋愛。
こうした幾つかのテーマを作品内に落とし込もうとしたが、その幾つかは中途半端になってしまった。

陰鬱になり過ぎると読者が離れていってしまうから、
次のテーマへと急ぐために駆け足に描き切ると また読者の納得まで遠ざかる。

主人公に与えてきた試練に比べてカタルシスを感じにくいのも欠点だろう。
彼女が出す結論に「それでいいの?」と首を傾げることが多かった。

キリスト教の赦しがメインに据えられているが、
どうしても日本人的な感覚を持ち出してしまい、
登場人物たちの罪の重さに対して罰が見当たらないのも気になる。
重苦しくなったら国外追放か、良い人変換で お茶を濁しまくっていた。

もっと作者自身の深い考察が表れるような内容に出来たのではないか。
月2回の連載の難しさが如実に表れてしまっている作品かもしれない。

主人公・マリアの鋭い舌鋒のように、作者にも数々の問題に快刀乱麻を断つ構成を用意して欲しかった。


書は 特殊能力者の漫画でもある。

主人公のマリアは「異常にカンがいい」らしい。

作品全体の感じだと、会話をしている相手の嘘や虚飾を見抜くというものだと思っていたが、
冒頭の電車内の場面では、会話はなく、相手の正体を見抜いている。
その人から発せられるオーラで分かるものなのか?

この能力(それ以前に能力でもないのだろうが)に しっかりとしたルールがないのも、
合理的な説明を好む 頭でっかちな私には気になるところ。

そして その能力をもってしても把握できない部分があることも分からない。
発動する時/しない時の区別があるように見えるが、これも説明はない。

自分が発する言葉に相手が過剰反応するという共通点から、
西澤保彦さんのミステリ『完全無欠の名探偵』を思い出した。

また現在なら、マリアはAIロボットとも考えられる。
相手の声の出し方や高低などを嘘や自己弁護の割合を計算して答えを導き出す。
それが人には出来ないことで、だからこそ人を不快にさせる一因。

また その結果を相手に配慮なく伝えてしまうから、人間とトラブルが起きる。
だが、クラスメイトたちとの交流を深め、
経験値を得て、ディープラーニングすることで人の気持ちを学習していく。
美人だけど無表情なマリアは高度なAIロボットとも見えなくもない。

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自分の闇を見せる代わりに相手の闇を暴露する裸の付き合い。でも教室内では服を着よう。

実的(?)な解釈をすれば他人にとってマリアは超能力者だろう。

会話をするだけで自分の気持ちが盗み取られ、躊躇なく暴露される。
こんなサトラレ現象が起きたら、誰でもマリアを忌避してしまうだろう。

ただでさえ住む世界の違う私立高校からの転入生で、
さらには超能力者となると、クラスメイトが排他的な行動を採るのも理解できてしまう。

顔のない集団としての いじめを推進するけれど、
相手を罵倒する場面でも自分が矢面に立ちたくないという卑近さの表現は見事。

今回の転校で、マリアは自分の特殊能力を自覚しながら、
彼我の能力の違いや、自分の欠点、相手の美点を学び、
学校という限定された人間社会で上手くやっていく方策を試みる。

やっぱりロボットみたいですね、マリアは。


そして、作中でも指摘されている通り、
マリアの真の特殊能力は「鏡」だろう。

「いやなところを全部うつしてしまう すごく つかれる鏡」
「心を汚れさせるアクマみたいな鏡」

これは「カンがい」い相手の本質をえぐる マリアの能力だけの話じゃない。

それは誰もが一目置く容姿の美しさも関係があると思う。

異性でも同性でも、一人とんでもない美形のクラスメイトがいたら、
美が ずっとそこにあるなら、見惚れると同時に、
そうではない自分をいつでも意識しなければならなくなる。

それは いつしか劣等感となって現れるだろう。
たとえ その人が謙虚であっても その態度すら気に食わない時も出てきてしまう。
ましてやマリアのような遠慮のない言動なら 尚更だ。

それは学力や金銭的な背景も同じで、
山の手の私立校から「偏差値やや低め」の高校への転入生の存在は格差を露わにさせてしまう。

自分が気にしている様々な価値観がマリアによって照射され浮かび上がってしまう。
だからこそマリアは アクマなのだ。


手に対するレスポンスが早いから物語はサクサク進む。

マリアは人の心を学ぶ途上での失敗はあっても、
泣いたり落ち込んだりしない。
常に前向き。
だから物語が停滞しない。
前半は、特殊能力のお陰で全力前進という感じだ。
このスピード感が最後まで保てれば良かったのだが…。


基本的には相手の不興を買うばかりのマリアだが、
彼女は自分の信じる道が正しいのかどうか判断するために猪突猛進する。

そんな危なっかしい彼女に寄り添い制御方法を伝授しようとするのが冒頭に紹介した神田 優介。

そして突き放すようでいて彼女を一番見ているのが目黒 伸(めぐろ しん)。

優介に比べて登場場面も発言回数も少ない天邪鬼でツンデレな目黒だが、
美味しいところは独り占めする。

それだけ陰では彼女をよく見て、気遣っている証拠でもある。
彼だけは最初から不器用で純粋なマリアに気づいていた。

少女漫画において、シンデレラのように男性が靴を履かせてあげる、
または傷の手当てをしてあげることは、王子様の証でしょうか。

現段階では、優介と目黒、どちらもヒーローの座になりそうな気配がある。
Wヒーロー体制で先が読めないのも本書の面白さか。

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恋の概念は学習途中だからか相手の動揺を察知できないAIロボット・マリア。ただ彼の優しさだけが伝わる。

2作品読んで、作者の作品は独特の手触りを持っていることを実感した。
良くも悪くも通常の少女漫画とは違う手法が採られているように思う。

作者の(少女漫画の)読書遍歴などが知りたい。
漫画の作り方とか、少女漫画の文法とか、何か他の人とは違う個性を感じる。

ただ問題もあって、独特すぎて読みにくいが多い。

特にモノローグが分かりにくい。
誰が言っているのか分からなかったり、
何ページにも亘ってたりする上に、通常の台詞も書いてあるから、
頭に入ってこない箇所が多かった。


また、この案では少女漫画のカテゴリからは外れるかもしれないが、
マリアが教師であったら違う面白さを出せたのではないかと空想する。

序盤は合唱がテーマにあるのでアメリカのテレビドラマ『glee』みたいな感じで(見たことないけど…)。

いわゆる熱血教師モノとは違うアプローチで、
冷血なんだけど一人一人の生徒と真摯に向き合って、
やがて彼女自身も成長していることを実感する…、みたいな内容になる はず。

これならマリアの上から目線の口調も緩和され、
本書の中で一番胸糞の悪い担任教師も排除できる。

まぁ、恋愛部分に生徒と教師という余計な問題が入って論点がブレてしまうが…。
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