言いたいことは完結に。

Compactly Completed Comics

最終巻にウダウダと文句を言うのは お前か? 俺の唇で お前の口ふさぐぞ、こら!

キスよりも早く 12 (花とゆめコミックス)
田中 メカ(たなか めか)
キスよりも早く(きすよりもはやく)
第12巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★★(6点)
 

未提出の婚姻届を発見し、家を出た文乃は、先生の「文乃を追いかけない」という言葉を聞いてショックを受ける。そんな文乃に翔馬は告白!! 混乱する中、更に衝撃の事実が明らかに…先生との関係は!? 10年後を描いた描き下ろし漫画収録! 感動の最終巻!!

簡潔完結感想文

  • 運命の日。大学受験と翔馬の告白の合否の発表。地道な努力は実を結ぶか⁉
  • 卒業。先生、最後のヒーローショー。先生と生徒じゃなくなった夜に…。
  • 光よりも早く。特別編は一気に10年後に。この評判が「Future」へ続く?

ス我慢選手権の記録は、推定1年11か月の 最終12巻。

大団円です。
終わり良ければ総て良し。

ハチャメチャな設定も、マンネリの連載も、
腑に落ちない別離も、キス一つで不満は雲散霧消されてしまいます。
(悪口ばっかりだな)

それぐらい読者の待ちに待ったキスシーンは破壊力抜群。
これまでは このシーンを読むための長い長い修行の道だったのかもしれない。

「キス」よりも早く「結婚」した2人が、
キスの後に結婚式を挙げることで物語は終わりを迎える。

先生と生徒という秘密の関係であった2人だが、
これで普通の男と女になり、夫と妻になった。

結婚式のシーンが こんなにも意味あるものになる少女漫画も珍しい。

激甘な物語も一件落着。大団円となりました。

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先生 最後のヒーローショー@卒業式。身体を張る体力バカで、知能は あんまりでしたね…(辛口)

でも『12巻』が広く読者から受け入れられたのは、
7ページの特別編にあるのではないかと思う。

最終回から10年後の世界を文乃の弟・鉄兵(てっぺい)を中心に据えて描く一編。

この7ページの破壊力が読者の幸福感を一層引き立てている。
そして その高評価が番外編『キス早 Future』に繋がったのではないか。

現実世界で連載終了から15年ぐらい経ったら、
かつての『キス早』読者をターゲットにした、
文乃たちの子供を主役にした『キス早 Next Generation』を連載しても良いかもしれない。

2012年連載終了なので、2021年の現在からは あと数年。
現在の お仕事が一区切りついたら、どうっすか?


だ、疑問を呈したい箇所も幾つかある。

特に最終回に向けての『11巻』と『12巻』の流れ。

『11巻』から先生の実家で権力者の尾白(おじろ)家の介入が始まり、
文乃との生活に暗雲が立ち込めるという展開が幕を開ける。

これによって ほのぼの夫婦コメディに緊張感が もたらされ、
クライマックスに向けての大きな流れが出来上がった。

が、作者が構想する話の流れと、
登場人物たちの思考が一致しないところを多々 感じる。
よくよく考えてみると不自然な部分が多いのだ。

先生が、高校生の時から いや小学生の時から不信感を募らせていた実家の
いまさらの介入に先生が従うことに首を傾げる。

更に言えば実家が先生の結婚に口を出すのも、
存在すら否定していた息子に「処分」を下すことに疑問を持たざるを得ない。

従う義務も、従わせる権利もないのに、
なぜか 先生たちは自分たちが苦しい道ばかりを選ぶ。

尾白家の問題の後に、文乃たち夫婦の問題が控えているから、
大々的に尾白家のことを取り上げられなかったのだろうが、
かなり序盤から引っ張ってきた話題が消化不良で有耶無耶になってしまった。

父親が息子である先生に、
「尾白を出て20年 無駄に時を過ごしたわけではないんだな?」言っていたが、
私は逆に、先生の鬱屈の20年に対して、あまりにも救済がないと叫びたい。


今回の別居は、これまでも短期間 繰り返して文乃たちを悩ませた別居が、
その距離も時間も比較にならないほどの規模で目の前に迫っている。
しかし今の2人なら、乗り越えられるだけの絆があることを描いているのだろう。

その狙いは分かるが、起こる発端が分からない。


日常回の多い白泉社漫画で最終回に向けて物語の舵を切るために、
敵対する者や、どんでん返しを用意するのは大変だろう。

でも本書の場合、あまりにも その構成が粗悪な弥縫策で、
体裁だけ整えたハリボテ感が あり過ぎる。

先生こと一馬(かずま)と彼の父・冬馬(とうま)の
互いに対する感情をもっと深く掘り下げて、物語に組み込むべきだったのではないか。

甘いキス、そして結婚で全てを水に流しているようだが、
甘味を引き立てる塩味など違う味を研究し、上手に配合しないから
結果的に深みのない子供じみた味になってしまった。

長編なので再読に耐えうる神経の行き届いた職人技が見たかった。


人公・文乃に課せられた最後の試練は夫への不信感の払拭、
そして来たるべき長期別居への夫婦の絆の再生である。

こう書くと まるで先生が浮気をして文乃が傷ついているように思えますね。
そういえば先生は一度も浮気疑惑が出ませんでしたね。
メグや一瞬のモテ期以外は、モテる気配すらなかった。

アバタもエクボで、文乃には格好良く見えているが、
実際に先生は紛れもない地味眼鏡なんじゃないか…(笑)


先生の文乃への裏切りは、浮気ではなく婚姻届の未提出。

文乃の動揺の原因は2つ。
先生が自分に話さずにいたこと。
そして先生が「夫」ではなかった事実。

相変わらず、というか最初から先生は自分のことは一切話さない秘密主義のようです。

そして文乃は、今まで あれやこれや醜態も媚態も晒してきた先生が、
「夫」ではなく「男」であったことに困惑と羞恥を感じる。

恋愛経験も乏しく、幼い文乃にとって、
「先生」で「夫」の社会的な身分があった方が自分の役割も果たしやすかったのだろう。

そして自分も「妻」ではなかったため、
今回の騒動で文乃は異性として先生を見つめ直し、自分が彼とどういう関係を気づくかの答えを出す。

2年間、友達として交流のあった人を改めて恋人候補として見直すように、
これまで夫であった人を初めて一人の男として捉え始める。


乃の先生との未来の選択は、
先生が離島の教師になる確定された未来も影響する。

これは先生の実家・尾白家からの処分によるもの。

先生が甘んじて受ける このペナルティ、意味が分からない。

なぜ社会人である一馬が出た家の影響を受けるのか、
結婚の事実がない同居でも罰を受けるのも不思議だ。

学校や世間にバレた訳でもないのに、私的な制裁を加える。
そして文乃が学校を卒業した後から制裁が発動し、
ずっと先生は生家のことに煩わされなければならないのか。

先生は全てを捨てて20年前に家を捨てたのではないのか。
先生側にメリットが何も見当たらない。

この論理性の無さが最終盤の私の評価を下げている。


にとって本書は、文乃への好感度は全く変わらなかったが、
先生のは どんどん下がる作品でした。

ポテンシャルは高くて無敵なのだが、
自分勝手さが目に余った。

文乃を第一に考えていることは分かるのだが、
10年会わなかった父の言葉に反論しない彼には幻滅。

文乃の梶(かじ)家に婿入りするとか奇抜な手法は無かったのだろうか。

尾白家にこだわるのは翔馬や新しく生まれた妹たち家族への配慮なのかな。

「地獄の まーくん」も喧嘩が強いだけで、
口論など頭を使う場面は弱いのかな。

ずっと先生を「大人」として描いてきたのなら、
「大人」の先生の文乃の守り方を描いて欲しかった。


生と文乃が学校内外で接触しないように、
先生の弟・翔馬(しょうま)と父の秘書・佐々(ささ)が投入される。

まるで清い男女交際を保つために逐一行動をチェックする過干渉な親である。

翔馬は役得の監視役。

しかし文乃の この学校での卒業は応援しながらも、父の言いなりになる翔馬。
彼も兄も父の何がそんなに怖いのでしょうか。
父の性格と権力と目的が破滅的に理解できない。

翔馬は先生と文乃の接触がないように、自分が文乃を占有する。
そして翔馬は初めて文乃に告白する。

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負け戦でも、その人が兄嫁(仮)であっても告白せずには いられない。それが恋なのです。

でも尾白の当主である彼らの父は、
文乃が担任である一馬と結婚していたことが世間体が悪いと許せなかったが、
もし翔馬が文乃と交際する時には何も言わないのだろうか。

結婚とは また別の話で、交際ぐらいは自由にさせるのか?


そんな仮定は現実のものとならず、
文乃の大学受験の合格発表の日、翔馬は恋人検定の不合格を言い渡される。

ま、そりゃそうだよね。
翔馬としては無自覚から随分長い片想いだったけど、
告白から 僅か2話で文乃に断られてしまいましたね。

勝ち目が無さすぎて当て馬としても それほど機能しませんでしたね。
ツンデレ不器用なアプローチは先生と違う恋模様を見せてくれましたが。


翔馬に関しては先生(なんか)よりも ずっと好きなキャラだが、
私としては彼の女性への好意は全部いらなかったかな。

先生のライバル役としては適役だったが、
彼には当初のスタンス通り、兄大好きキャラだけで いて欲しかった。

文乃に惹かれるベタな展開抜きで彼を活かしてくれたら
オリジナリティがあって面白かったのに。

そして10年後の後日談でのメグとの婚約も蛇足かな。
これは仲間内をカップルに仕立て上げる少女漫画の悪癖だと思います。

メグとは互いに10代の頃の恋愛が散ったことを知る
昔からの友人としての関係でいて良かったのではないか。

読者が全く顔の知らない人を急に恋人に出来ない制約があるとは思うが、
文乃に恋をして失って、アメリカに渡って、新しい視野を手に入れた翔馬なら
別の素敵な人を見つける可能性があったはず。

メグに文句はないが、残り物をつがいにするような展開に嫌悪感がある。


10年後といえば、先生(と文乃)が一家の新居に問題児を連れてきて住まわせるという後日談も蛇足かな。

2人とも困っている人を見捨てられない、という
ある意味では教師の鑑のような性格を書いたものだろうが、
決して正しい手法とは言えないので止めてほしい。

世間に顔向け出来る方法で生徒を救う、
そのことを自分たちの経験で学ばなかったのだろうか。

一見、良いことに思えるが進歩や反省がない。
脳筋の先生はともかく、文乃まで そんなことをするとは…。
夫婦そろって特殊な思想の持ち主になってしまったのか。

この厳しい ご時世、教職免許を奪われませぬよう ご注意くださいね。


そして先生が文乃を連れてきて住まわせたのは純粋な好意であって欲しい。
ロリコン淫行教師であることが、先生の正しい姿なのだから(笑)