言いたいことは完結に。

Compactly Completed Comics

魔法使いにならないために 自分で自分に魔法をかけて 高校デビューを試みる主人公。

ダウト!! 1 (小学館文庫 いI 1)
和泉 かねよし(いずみ かねよし)
ダウト!!
第01巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

「30歳まで処女」と噂されるほどの地味S(ジミーズ)(ダサくて目立たない女)だった藍(あい)は、金と労力をつぎこんで美しく変身! 悲惨な中学時代に別れを告げ、誰も知り合いがいない高校で見事デビューを果たす。クラスメートの超イケメン・曹(そう)に一目ぼれした藍は、攻めの姿勢でクラス委員を一緒にやることに成功! だが曹は意外とくせ者だわ、女子には目をつけられるわ、過去を知られそうになるわ、「いい女」でいるのもなかなか厳しくて…?

簡潔完結感想文

  • 異邦人。物語は新しい土地、新しい異性との出会い、そして新しい自分で幕が上がる。
  • 女性の敵は女性。天然美人と思われれば嫉妬され、努力の美人と知られたら脅迫される。
  • 人との争いを収めてくれるのは いつもヒーロー。だけど このヒーローは格好いいか…⁉

校入学を機にヒエラルキーの最底辺から最上位へ 躍り出る主人公の 1巻。

男性は30歳で童貞だと魔法使いになれる らしいが、
女性は30歳で処女だと何になるのだろうか。

本書の中では「30歳まで処女」は主人公・前川 藍(まえかわ あい)のこの世で一番の恐怖の対象だが、
具体的に30歳で処女だと何か実害があるという話は出てこない。

まぁ普通に考えれば当然のように婚期を逃しているから、
(失礼な言い回しだが)女性としての賞味期限が切れて、
その先も恋人や配偶者の望みが薄いという先行きの不安があるのだろう。

そんな30歳での処女に恐れおののいていた当時の主人公は現在 中学校3年生の15歳(か14歳)。
30歳まで まだ時間は これまでの人生の倍あるのだが、
これまでの地味な人生と照らし合わせると恋愛経験がないまま30歳を迎えることは現実的な問題なのだろう。

クラスの一軍の女子生徒にからかわれ、好きな男の子にも笑われた藍は、

「マジメでもむくわれない地味S(ジミーズ)の人生なんてもう嫌」
「誰も受けない高校に行って過去なんか切り取って生きてやる」
「悪魔に魂を売ってでも いい女になってやる!!」と、決意。

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新天地での初日。ここで中途半端な容姿として認定されたら藍の努力は水の泡だった。

そこから半年前、普段の努力を重ねて「美女」として高校の入学式に臨む藍。
新天地で、新しい自分がスタートする展開は物語の幕開けに相応しい。

まぁ、現実的に考えれば藍は魔法のように高校入学直前に綺麗になったのではなく、
決意してからの約半年の間で綺麗になったのだろう。

なので中学卒業の間際など かなりのルックスになっていて男子生徒の間で良い噂が立ったに違いない。
まぁ、そこはファンタジーとして割り切りましょう。


書全体の総評としては、中盤からは良くも悪くも水戸黄門化した作品。

当初は4話の短期連載の予定が、好評につき全28回となった作品なので、
その形態の連載の少女漫画の ご多分に漏れず、
長期連載の確約と展望がないから恋愛問題に一区切りがついてからが退屈になる。

綺麗事なしに女性の本音を語る恋愛指南書的な側面があり面白いのだが、
基本的には人を入れ替えて同じことが繰り返されるだけである。

各話が ちゃんと面白くなるように工夫はされているものの、連続して読むと粗が見えてしまう。

この新しい敵、ライバルを順次 投入する形態は少年漫画ならば通用するのに、
少女漫画でやると途端にネタ切れ感が出てしまうから少女漫画家は大変だ。

そして本書の場合、新たに登場する人物が ほぼ女性で、
主人公の藍は その女性たちと ヒーローをめぐってバトルを繰り広げなければならない。

最初はド根性系の主人公が、女性の最大の敵である女性をちぎっては投げ ちぎっては投げる様子が痛快だった。
しかし技や力を習得する少年漫画と違い、彼女は現実の中で戦わなければならない制約がある。

なので そのバトルは爽快さ よりも精神的な粘着性が強くなり始めて痛快が不快に変わっていく。

藍は愛のために戦っている、といえば聞こえはいいが、
その愛も心許ないため、かえって女性の嫌な部分だけが強調されてしまった。


書におけるバトルは全体として「過去からの復讐」がメインになっている。

地味だった主人公・藍の自分の過去、
そして好きになった男・一ノ瀬 曹(いちのせ そう)が関係を持った過去の女性たち。
それらと闘い続けるのが、成り上がり美女・藍の宿命となる。

表面上は「高校デビュー」したド根性主人公による下剋上と読めるが、
美女となった藍から反対に見えてくるのは、女性が女性を僻(ひが)む時の心理である。

つまり高校を入学を機にリセットされた藍の存在は、周囲の女性たちにとっては天然美人にしか見えない。
藍は努力の末に美しさを手に入れたが、女性たちからは その外見だけで男子生徒からチヤホヤされていると反感を買う。

「女は加工品」

それが自身の現在の「美」が努力の結晶であることを知っている藍の結論。
美人は不断の努力で作られるもの。

最近の少女漫画は、努力なしに地味なままモテる、女性にとって夢のような少女漫画も増えてきたが、
本書の主人公を見ていると そこに安住していると 自分の伸びしろを潰している気がしてきた。


時に藍は、過去の後ろ向きだった頃の癖で尻込みしてしまうこともあるが、
自分の過去と決別、または認めた上で乗り越えることで前は進み続ける。

それが藍の過去との闘いである。

…にしても同じ中学の生徒が誰も受けない学校というのはどうやって選んだんだろう。
私立校でもなさそうだし、自宅から遠距離という描写もない、
成績が極端に良い or 悪い学校でもなさそうだ。
しかも上述の通り、数日間ではなく半年かけて綺麗になってるから変化は誰にでも分かるのだ。
そういえば本当に数日間で別人のように綺麗になった少女漫画もありましたね(『私がモテてどうすんだ』)。


名の「ダウト!!」はどういう意味なのだろうか。

考えられるのは「不審」だろうか。
美女として扱われる主人公が、実は地味だった過去があり、今の姿は加工品であるという点が不審なのか。

はたまたヒーロー・曹の ちゃらんぽらんさ が信用できないのか。

前半はメッキのような主人公の美を意図してるんだろうけど、
完読すると、ヒーローのことに思えてならない。

美人になって近づく権利を得た曹。
その彼女になるために様々な面でタフになる藍の奮闘を描く本書。

ただ、曹という男が そこまで素敵な人間として描けていない。
スケールが大きい男だということは分かるが、外見以外はサッパリ。

私には気分屋のヤンキー気質で、天真爛漫すぎるという面ばかりが目についてしまう。

毎回、藍を助けてくれるヒーローには違いないのだが、ヒーローの役割でしかないとも思う。

彼に群がる女性たちを描いて、過去の武勇伝を披露して、ヒーローの おいしい役目を与えると
女性たちは無条件で彼に価値があると思い込む という方程式が用いられている気がする。

というか藍が対決する人(主に女性)は、曹に関わる人たちばかりであって、
彼以外の人と落ち着いた恋愛をすれば何倍も幸せになるのではないかと思わざるを得ない。
(咬ませ犬役の雄一郎(ゆういちろう)くん といると無駄な争いもなく 心は穏やかに暮らせるはず)。

そして曹は、精神的には幼稚なのに なんだか親父くさい。
大人びているというよりも老けて見える。
髪型のせいかな。


気になるといえば、瞳の描写が気になって仕方がない。

この時期の作者は瞳の描き方が特徴的で、瞳の下部に水滴のような効果を入れている。

だがこれ、どうしても涙に見えてしまって、泣く場面でないのに涙を溜めているように見えてしまう。
表情から心情を推察する時に邪魔でしかない。

後年の作品にはないみたいなので一安心。来年(2022年)の春に読む予定です。

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こんな感じに 涙にしか見えない効果が入っている。

後に1話ごとの感想を書き連ねます。
当初の短期連載分の4回は起承転結がしっかりしている。

1話目は女性の敵は女性というお話。
今回、敵役だった美菜(みな)は今後レギュラーになる便利なギャル。

先日読んだ『桜蘭高校ホスト部』でもギャルが良い味を出してましたけど、
空気を読まずに発言する割に、義理人情に厚いから物語を動かす時に便利なんでしょうね。

2話目は美人になったからこそ悩むストーカー被害。
珍しく男性との対決シーンとなっています。
この犯人は その後 学校でどういう思いで過ごしたのだろうか(3話目に それらしい人がいる)。

3話目は過去からの復讐。
断ち切ったはずの中学時代の同級生が学園祭に到来する お話。
天然女 VS. ラッピングした元・地味女。
早くも藍側の過去の問題をクリアしちゃったから、
この後は曹の元カノ軍団ばかり出ることになったのかなぁ…。

4話目は曹側の過去。
教育実習生の浜野(はまの)ちはる との対決。
既に長編化が決まった後だろう。
この辺から女性の刺客との対決となる。

そして この辺から女性同士の正面バトルが、姑息な技を使ってでも陥れようとする胸糞の悪い展開になってしまう。
藍が正面突破の人なので、これから登場する女性は計略を駆使せざるを得ないか。

水戸黄門的な勧善懲悪だが、足の引っ張り合いが繰り返されるだけで、心は晴れない。

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ヒーローの為なら ここまでやる。もしかして捨てられた女の哀歌(エレジー)なのか⁉

段々と行動も過激になって
自分から階段を落ちるとか、歩道橋(階段ではなく橋部分)から落ちそうな人を助けないとか、
頭のおかしい部分が散見される。

全体としてコミカルに描き、最後は名言でまとめているけど、結構陰鬱。

5話目は勉強回。
自宅回といえば、女性が粗相して、男性が服を脱ぐまでが一連の流れ。
曹は現在の彼女以外には冷酷だということが よく分かる。
このラストを読んで曹をヒーローだと思う人は少ないだろう。

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最新の女である自分は助けてくれるが、昔の女には容赦ない曹。サイコパスとなりの怪物くん

6話目は ひと夏の読者モデル体験。
ここから三角関係に突入します。
まぁ 形式的というか、雄一郎の性格からして何も起きないのは明々白々。
雄一郎は時々 覚醒する便利なキャラとして活用されるだけ(ネタ切れの時とか?)。
この回だけ「藍」と呼び捨てして強気な雄一郎。

7話目は 学校中に美女と認知されたがゆえの苦難。
読者モデルになったことで、校内での藍の評価はさらに上がる。

結果的に校内乱闘となる。この学校、割と治安が悪く、民度が低い。
どうせ話に発展性はないのだから、最終回でも良かったのではと冷酷に評価しちゃう。

しれっと両想いになっているが、ドラマ性もなく、
また真摯な恋愛など望めるはずもなく。
藍の心も分からなければ、曹の心はもっと分からない。
大袈裟なことが起きないのが本書の特徴と思えば美点でもあるんだけど。

8話目は男に捨てられた美菜のために奮闘する お話。

んー、暴力行為が多いというか、ヤンキーチックなんですよね、発想が2人とも。
ある意味お似合いな2人である。
恋愛としては続きが全く気にならないが…。