言いたいことは完結に。

Compactly Completed Comics

町を見渡せる高さまで飛翔する私と、自分と彼の 在りたい将来像を見通せない私。

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岩本 ナオ(いわもと なお)
町でうわさの天狗の子(まちでうわさのてんぐのこ)
第07巻評価:★★★★(8点)
  総合評価:★★★★☆(9点)
 

女子力が試されるバレンタイン!みんなと一緒にチョコ作りに励む秋姫だが肝心の渡す相手が決まらない……。当日瞬ちゃんと帰り道で一緒になった秋姫は……。さらにホワイトデーを前にして不安定になる秋姫。チカラのコントロールがうまく出来なくなってちょっとしたパニックに。

簡潔完結感想文

  • バレンタイン回。あげる人のいないバレンタインデーは虚しい。だが貰いたい人はいるようで…。
  • 学年が進級。生まれて初めて瞬ちゃんと同じクラス。過保護で優しい瞬ちゃんは心配が募るが…。
  • 修行も進級。勉強も恋愛も牛歩だが、修行と才能は飛び級する秋姫。きっと今は空も飛べるはず

見る少女じゃいられない。だって天狗の子だからね、の7巻。

『7巻』は回を重ねるごとにここ数巻続いた少女漫画の定石を踏んだ構造から、
本書独自の天狗漫画へ徐々にシフトしていったように思う。

そして物語の核心に迫っていくような話が散見された。

週末修行だけで着実な成果を見せる秋姫(あきひめ)の天狗としての才。
導かれるようにして決まった修学旅行の行き先・奈良。
その奈良に呼ばれているよう感じるタケル君。
その全ての糸を裏で引いているのが、鬼の存在。

学校生活 最大のイベントである修学旅行で何かが起きるとしか思えない。
読者としても まだまだ、平凡で かけがえのない毎日の様子を読んでいたいのだが…。


書における「冬の3大イベント」のクリスマス、初詣も終わり、
いよいよ『7巻』では最後のバレンタインデー当日の様子が描かれる。

本命不在のままチョコクッキーだけを手作りした秋姫。
これまでも例年 渡すのは父親と瞬(しゅん)ちゃん、そして眷属見習いのアニマルたちだけ。
違うのは今回は渡す相手の候補に嫁探しをしている四国の天狗・栄介(えいすけ)が入ってるぐらいか。

だが、今年も結果としては同じ。
瞬ちゃんには一緒に下校した際に電車の中で渡すことに。

ことの発端は、お互いテストの結果を見せ合う(チューター・瞬ちゃんの指導か?)際に、
鞄を開けた時、お互いの鞄の中にチョコが入っていることを見つけたことに始まる。

瞬ちゃんが学校生活1年目でチョコを貰っていることにショックを受ける秋姫と、
秋姫のチョコが誰の手に渡るのか圧をもって詰問する瞬ちゃん。

この後の、秋姫のチョコを巡る2人の押し問答が良いですね。
瞬ちゃんの論理は滅茶苦茶で、ジャイアン的な強引さを感じる。

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いいか、秋姫。この時の俺は お前が作ったチョコが欲しくてたまらないから、こんな屁理屈を言っているんだ。

が、その裏にあるのは俺以外の男にチョコを渡すことが嫌だという気持ちだろう。
決してジャイアニズムを爆発させているだけではないのだ。

この場面、漫画によっては告白シーンと変換されて、
この回でハッピーエンドになってもおかしくない内容。

だけど、秋姫たちは お互い踏み込まないし、踏み出さないから、このままの状態。

秋姫に至っては、当日の出来事を「瞬ちゃんにチョコとられ」た、と回想している。
マジで瞬ちゃんをジャイアンだと思っているのではないか、この子…。
チョコが欲しい=お前の気持ちが欲しい、ということに気づいてない様子。


一方、ポーカーフェイスの小心者・瞬ちゃんは内心は冷静ではないらしい。
秋姫が自分の名前を呼ぶだけで平常心を失い、水渡りが出来なくなり池に落ちる。
(翌日には軽い風邪の症状が出ている)

逆に、秋姫は焦っているのに水渡りが出来ている。
バレンタインデーでどちらが心が大きく揺れていたのか、一目瞭然ですね。

秋姫が水渡りが出来るのは、描かれていないが、土曜日の天狗修行を続けた成果なのだろうか。


なみに居候天狗の モミジちゃんは、男性陣にぬかりなくチョコを渡す。
ただ、瞬ちゃんとそれ以外は明らかな差をつけて。
そのことが秋姫を再度 悩ませる。

モミジちゃんの瞬ちゃんへの想いは少女漫画でよくある、
主人公の思い込み や誤解ではなく、本物なのかな。
モミジちゃんは秋姫の前では完璧に「モミジちゃん」でい続けるので真相が見えにくい。

そんな秋姫の悩みを通じて、何気にモミジちゃんが、
隣のクラス(秋姫たちのクラス)の女子から一斉攻撃をされている様子も描かれる。

これは ちょっと作品としてモミジちゃんへの当たりが強すぎる。

この前後はクラスの団結を表す良いシーンだったのに、
ストレートな悪口でクラス内が結束している様子はリアルだけど、残念なシーン。

「他人への悪意で深める友情のむなしさを君は知っている」
アサダニッキ さん『星上くんはどうかしている』)という言葉を送りたい。

なので、いつまで経っても消えない モミジの転校生感。
これは やっぱり地元が違うという田舎ならではの閉鎖性・排他性が原因だろうか。


レンタインデー当日の それぞれの恋模様も楽しい。

ただ今回は『6巻』と違って、秋姫と瞬ちゃんの恋愛度が高いからか、
相対的に他の人たちの描写は抑えめにして、曖昧になっている。

チョコを渡したミドリちゃん、渡さない選択をした金ちゃん。
そして三郎坊に渡したかどうかも分からない赤沢ちゃん。

渡したミドリちゃんに関しても具体的な内容には踏み込んでないので結果は分かりません。
赤沢ちゃんの後日談は聞きたいですね。

そしてバレンタインデーでクラスのアイドル男子・雲居くんを巡る女子生徒の争奪戦に一つの答えが出た。

そのせいで女子生徒の一部で少し険悪な雰囲気が漂ったりと、クラス内の雰囲気がリアル。
いよいよ物語も2月も終わりに差し掛かり、クラス替え間近だというのに。


そんなクラスを再結集させたのが、秋姫の異変。

バレンタインデーとその後のホワイトデーで瞬ちゃんとモミジの仲が
進展するのではないかという不安と嫉妬が、髪型に現れる。
なんで、こんな現象が起きるのかは、この巻の後半で説明がつきます。

自分の不安定さを自覚しようとしない秋姫にクラスメイトは心配する。
当初は衝突もあったけど自分のことを心配し、信頼してくれる人への気持ちが、秋姫を落ち着かせる。


が、良くも悪くも人間関係がリセットされてしまうのが4月に入っての進級。

そして今年は何と瞬ちゃんと同じクラス。
瞬ちゃんは小中学校に通っていなかったので、秋姫は生まれて初めてクラスメイトになる。

始業式当日のクラス替え発表前のネガティブなミドリちゃんが良いですね。
彼女が天狗なら、気に入らないことが起きたらすぐ学校を半壊させるタイプかもしれない(笑)


そして4月は何かと人間関係に躓きやすい秋姫。

今年は瞬ちゃんという心強い味方が側にいるが、
それはクラス内で起こるほぼ全てのことを瞬ちゃんに把握されることでもあった。

元カレ・タケル君絡みで少し因縁が出来たクラスメイトに無視されてしまう秋姫。
それを目撃した瞬ちゃんは呆然自失。

昔から4月は泣いてばかりの4秋姫が、こんな体験をしていたのかと胸を痛めたのかもしれない。

ちなみに四国の天狗・栄介が、この学校に進学してきた。
なんと彼は秋姫たちより1歳年下。

天狗と天狗見習いが4人も集結する学校は、この時代珍しいだろう。


に物語も後半戦に入って、ちょっとずつこの先の展開が見えてきます。

まずは学校最大のイベントともいえる修学旅行。
行き先は奈良。
だが、奈良は警戒すべきものが多いらしい。

どうやらタケル君も奈良に呼ばれているらしく…。

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そうだね、刑部(おさかべ)さん。男は頼りにされると とっても嬉しいもんなんだよ(by.元カレ)。

そして秋姫の能力。
秋姫の週末修行も次の段階に入って、いよいよ『飛翔』に向けた訓練となる。
どうやら精神力によって念動力や重力制御が出来るらしい。

栄介のアプローチからモミジちゃんを守るべく一歩前に出た瞬ちゃん。
その姿を見た秋姫は、自分がどこかへ行くことで現実から目を逸らそうとする。
すると、秋姫の身体がみるみると浮いていって…。

そうか、バレンタインからホワイトデーの間の、
秋姫の髪の毛の異常は髪が逆立っていたのか。
これは髪の毛周辺の重力制御が上手く出来なかったからだろう。


秋姫が飛翔する場面は、コマ割りや構図がダイナミックになっていますね。
この辺りから作者の絵の表現が一段と向上しているように思う。


この秋姫が天に上っていく描写は、
瞬ちゃんが幼い頃から見ていた夢、「秋姫が暗がりに落ちて」いくのとは逆の構図ですね。

今回、夢の場合とは違ったが、秋姫の手を取ってやれなかったことを瞬ちゃんが猛省したりしなければいいが…。

そして秋姫には「正体」があるらしい。
ここにきて一気に剣呑な雰囲気が出てきましたね。


んな暗い予感を覚えながらも日常は続く。

ゴールデンウィークに突入し、クラスの男女が集合。
だが、男子が企画したイベントに女子がついていった結果が…。

瞬ちゃんとタケル君が「訳わかんないぐらい」「仲よくなってる」ことは喜ばしい秋姫(『6巻』より)。

だが、この1年で男友達の様子を観察していた秋姫は
「あいつらとは 文化が違うってこと」がよくわかっている。

ゴールデンウィークにクラスメイトたちで出掛けることになった先は地元の山。
そして目的は縄文時代貝塚や矢じりの発掘だそうで…。

これが男女の差か。
発掘にロマンを感じられるかどうか。

ただし新しいクラスでの交流も始まる。
2年生もまた1年間楽しく過ごして欲しいのだが、秋姫の足元と物語に影が浮かぶ…。