言いたいことは完結に。

Compactly Completed Comics

正当な遺産相続人が現れたので、その人の配偶者になって遺産の流出を防ぐ俺の記録(嘘)

f:id:best_lilium222:20201130191351p:plain
樋野 まつり(ひの まつり)
とらわれの身の上(とらわれのみのうえ)
第01巻評価:★★★☆(7点)
  総合評価:★★★(6点)
 

黒石恵は、先祖が受けた竜神の呪いにより、
昂上鈴花と目が合うと「下僕発作」が起きてしまう体質。
両想いの仲なのに主人と下僕の二人には、どんな運命が待ち受けているの…!?
ヴァンパイア騎士」の樋野まつり、最初のヒットシリーズが愛蔵版で登場♪
描き下ろしカバーをはじめ、カラーイラストたっぷりの永久保存版。 2012年12月刊。

簡潔完結感想文

  • あくまで執事ですから。ある日 突然 始まるイケメン執事との暮らし。でも彼、骨まで下僕ですから。
  • お嬢様の生活は おはよう から おやすみまでサポートします。盗聴に怪盗、そしてその心 盗みます。
  • 立て続けに参戦する恋のライバル。年下の御曹司系男子、外国のエキゾチック男子。イケメン図鑑?

一読すれば著者の魅力に とらわれる 下僕必至の 第1巻。

著者の初単行本・初連載(多分…)の愛蔵版。

本作品は、雑誌の掲載号を見る限り、
新人作家によく見られる、読切短編が好評を博し、
そこから追加で3回の短期連載、そして更に長期連載へと移行したようだ。

それも納得で、何といっても「美麗」というのに相応しい絵に目が奪われる。
携帯電話などの電子機器を除けば、この作品が掲載された年代は分からないのではないか。

少なくとも1999年の初掲載から20年以上 経過した2020年現在でも古臭さを感じさせない(と思う)。
初単行本で、これだけ完成度の高い作品を出していたことに驚かされる。

当時、この画力、この線の美しさは革新的だったのではないか。
まぁ敢えて難点を言うならば、ヒーローの体型だろうか、
CLAMP作品かキャプテン翼ばりに、顔が小さすぎます。
君は一体 何頭身で、股下 何センチなんだ⁉

もちろん画力だけが評価される点ではなく、
気高さを秘めた画風の中で思いっ切りギャグが繰り広げられるところは抱腹絶倒である。

とある屋敷の令嬢と執事という関係も乙女の憧れのシチュエーション。
この後の執事ブームを数年先取りしているのではないか。

f:id:best_lilium222:20201202212149p:plainf:id:best_lilium222:20201202212142p:plain
主人公の初対面と、初めての下僕発作。この展開だけで、読者が「とらわれの身の上」。

切短編が、読者から熱い人気が出たのも納得である。
というか、この短編を上回る読切作品は なかなかない と思われる

と、ずっと褒めてきたのだが、
本書の欠点を挙げるとすれば、短期連載終了後の長期連載の展望だろう。

残念ながら、長期連載後(5話目以降)の内容は、いまいち盛り上がりに欠けた。

面白さは読切短編に全ては詰まっているし、
恋愛関係としても短期連載の4回目で完了してしまっている。
これ以降の恋愛描写は互いの葛藤のみに終始しており、盛り上がりに欠けた。

ましてや少女漫画界でも性行為を描かないことでお馴染みの白泉社(私の研究『少女漫画分析』より)
しかも当時の白泉社でキス以上の事件が起こるはずもないので、
主人公たちの恋愛に足かせをつけて、彼らを「とらわれの身の上」にする手法も限界がある。


それは作者や編集者側も重々 承知のようで、
この『1巻』でも話を広げるために次々とキャラを追加してみたり、
記憶喪失という便利な手段で過去を掘り下げてみたり、
『2巻』以降ではもっともっと過去に遡り、エピソードゼロを展開したりしたが、
頑張って横や下に掘り進めていっても、それ以上は資源が何も出なかった印象も受ける。

ここには鉱山で奇跡的にダイヤや金が見つかる、
名門家系・昂上(こうがみ)家の お力も発揮されなかった様子。


やはりこれは恋愛を早くに固定化してしまったことが原因か。

この頃は新人作家さんだから1話ずつ全力投球で、4話まで続いたことが奇跡なんだろう。
ただ、最初から長期連載を念頭に置いていれば また違った構成になるのに、と少し残念に思う。


本書は登場人物たちの可愛さと格好良さを描くと同時に、
コミカルな要素、ネタをネタとして割り切っている点が良いですね。

作者が読者へのサービスを十全に提供してくれている感じがします。
作者がちゃんと主人公たちとの距離を適度に保ってくれています。
作者がキャラを溺愛すると、独善性が出てしまいますからね。


み切り作品である1話目は、本当に良く出来ている。

主人公は、昂上(こうがみ)家に代々使える黒石(くろいし)の家に生まれた男・恵(めぐみ・20歳)。

14年前、昂上家当主一家は旅行先の中国で行方不明。
当主には遺言状が残されており、昂上家一筋30年の執事であった彼の父親が丸まる貰ったらしい。

なので恵は執事の家系でありながら、屋敷と財産を資本に優雅な暮らしを満喫中。

しかし、ここへきて一家の行方が判明。
だが、中国に向かった父親が連れ帰ったのは一人娘・鈴花(すずか・17歳)のみ。

どうやら彼女以外は、やはり死んでしまっているらしい。
そうして14年ぶりに昂上家の人間と再会することになった恵。
だが、彼は昂上家へ仕えることがどういうことか身をもって知る…。


れが「下僕発作」であった。

どうやら時を遡ること室町時代の呪いが原因らしい。
昂上家を守護する竜神が、悪事を働いた黒石に与えた罰が、絶対遵守らしい。

f:id:best_lilium222:20201202212220p:plainf:id:best_lilium222:20201202212211p:plain
ご先祖様の悪事に とらわれている 黒石家の人々。でも先祖の力があるから盗聴も怪盗も出来ちゃうのかも⁉

通常なら昂上家との主従関係の中で徐々に免疫を獲得するのだが、
恵は、この14年間一切 昂上の関わらなかったので、特に激しい発作を起こす。

この下僕発作は発明ですね。

昨今の漫画は二面性を強調してキャラ付けに利用する漫画が多々 見られますが、
1999年にこのキャラ付けは革新的だったのではないでしょうか。
あくまで執事で、本当は下僕。

また、立場としてはどちらも不幸であることが面白い。

恵は代々の仕事は承知しながらも、鈴花の下僕と成り果てる未来は想像してなかっただろう。

そして鈴花もまた、執事がいる環境に慣れることなく育ち、
急に日本に連れ戻され、黒石親子に大事にされるのだが、恵はどこか人間的ではない。

確かに下僕には人権がないから人間じゃないのかもしれない。
鈴花からしてみれば、同じことを何度も繰り返す恵は、執事のゾンビのように得体が知れないだろう。


鈴花はそんな恵の境遇を思い涙を流す優しい人。

本来ならば、自分たちは互いに敬意をもって接することで関係が構築されていくのに、
一足飛びでお嬢様と下僕になってしまった。

そんな関係が許せず、鈴花は屋敷を去り、中国に帰り元の生活に戻る。
それは自分の願いでもあり、呪いに左右されない人生を恵に与えるためでもあった。
が、恵の願いは…。

やはり、こんな高クオリティの読切短編はなかなかありませんね。
1話など、メイン登場人物は黒石親子と鈴花の3人のみ(あとは中国の養母)。

余談だが、当主の遺言は鈴花が誕生前に作成されており、
「当主死亡後は妻と執事に半分ずつ」という内容。

ということは、鈴花の生存が確認されても、財産は恵の父のものには変わりはないのだろうか。
まぁ、恵の父は執事としての矜持で必要以上の財産には手を付けないだろうけど。

ロマンスも何もない視点から言えば、
恵は悠々自適な生活を続けるために、財産家の鈴花に取り入ろうと、
口八丁で近づく若いツバメ(年上だけど)にも見えなくもない。

執事もコスプレで、本業はホストと言われても信じちゃうかもしれない。


本的に短期連載の4話までは登場人物が最低限だ。

読切短編はずっとお屋敷内の話だったが、読み切りから世界が広がり、鈴花も学校に通う。

ちなみに鈴花が通うのは、大学まであるエスカレーター式の学校。
私立高校だと思われ、十分贅沢という視点もあるが、鈴花は学費の相場など知らないだろう。
それよりも、収入がなく昂上の遺産で暮らしていた黒石家の人間がずっと私立に通っている方が贅沢か。

学校生活もコミカルに描かれ、恵は鈴花に盗聴器を仕掛け、
変な虫(男)が近づけば高校の校舎に入り込み、虫を追い払う。

この辺の恵は執事でも何でもなく、妹または娘の学校生活を心配する過保護な兄 or 父である。
そして年頃の娘への過干渉は嫌われると決まっている。

そのことが鈴花を悩ませる。
なぜなら、自分に関わることで恵の自由が無くなると考えているから。


だが着実に2人の距離は縮まる。
ただ、恵の中の自分への好意が、
呪いによるものなのか恵の本心なのかが分からないことは鈴花を悩ませる。

恋する乙女となった鈴花には、恵の本心を覆い隠す呪いは恋の障害なのである。
この辺りから、2人の恋愛は一番近くにお仕えしながら、一番障害の多い恋として語られる。


3話目では更に世界、というか2人の距離を離す訓練が行われ、恵も真面目に大学に通い出す。
恵のお目付け役は同級生の相良(さがら)。
(余談ですが相良はもうちょっと鈴花の嫉妬を燃え上がらすと思ってました)

相良との会話を、恵が切り忘れた携帯電話を通じて聞いてしまった鈴花。

だが、たとえ過去でも好きな人から死を望まれていたことに鈴花はショックを受け、
恵に本心を聞かせろと、禁止されている「命令」下してしまう…。

この時、ずっと鈴花を盗聴しようとしていた恵の方が盗聴されるという構図が面白いですね。

命令を取り消す方法、そして呪いを解く方法、屋敷中を探し回る鈴花。
そして、あんな危険な真似までして恵の本心を聞きたくなかったのか、という鈴花の葛藤と奮闘がいいですね。
そしてハッピーエンド。4話完結の良い話だったんじゃないでしょうか。


妙な最終回を迎えた後で続投が決定します。

5話目からは更に世界が広がり、登場人物も続々と増える。

また、作中での時間の経過も考えられており、
「あの」昂上家に跡取りが戻ってきたということから問題が派生するのが面白い。

そうなると持ち出されるのが名家同士の縁談である。

鈴花を嫁に貰いに来たのは経済界の重鎮の会長の唯一の男孫・鷹司 比流(たかつかさ ひりゅう・16歳)。
学業終了後、事業を起こして初めて跡継ぎとして認められるため、有力な家の女性を得なければならないらしい。
って、これ女性側の財産が軍資金ってこと⁉

f:id:best_lilium222:20201202212435p:plainf:id:best_lilium222:20201202212243p:plain
(左)インド人のイケメン (右)御曹司のイケメン。様々なタイプをご用意しております、お嬢様。

ただ比流坊っちゃんは本当に鈴花のことが好きで、恵のライバルですね。

そこで湧き上がるのが、また一段と視野を広げての、この屋敷の外から見た2人の関係。
そう身分違いの恋なのだ。お嬢様と使用人。

一方、鷹司家は名家。
今度は恵が鈴花の幸せを考えてしまう。
恵はあくまで学生、せいぜい執事でしかない。

そして恋人のためと相手を無視した一方的な考えが、
かえって恋人を悲しませるのは いつの世も一緒。

比流坊っちゃんのお目付け役は何と昂上家の血縁である紫端湊(しばた みなと)。
恵は相手が鈴花じゃなくても下僕発作が起きることを思い知らされる。

湊は比流に恩があり心から仕えており、そして比流の願いをかなえるためには手段を択ばない。
そして昂上の血の力を使って恵を下がらせ、鈴花をかどわかす。

そして めでたく婚約成立(展開が早い)。
再び離れてしまった恵。
彼は誰の願いを、幸福を優先するのか…。

誰もが自分の願いのために相手の肩書を利用していた。
ちょっと悲しい世界ですね。


の話では急遽 旅に出た父の代わりに、恵の母・恵都(けいと)が登場。

またまた登場人物が増えてます。

彼女が、恵の同級生相良ぐらい若いのは、
老けた女性が描けない訳ではなく、火炎放射器であちこち火傷して、
全身手術のついでシワのばしをしたから、というトンデモ設定。

職業はインタポールの捜査官。

母は人身売買担当で、人権を無視した下僕の呪いを許せない。
身内から初の現状の反対勢力が出ましたね。

また母の登場で、本書の世界は犯罪方向にも広がったようだ。

驚くことに、鈴花はその昔、人身売買組織に攫われたらしい。
3歳で両親と死別して5歳に組織に連れ去られたという、
鈴花の過去が肉付けという名の後付けがされていきます。

なるほど、鈴花もまた過去には「とらわれの身の上」だった訳ですね。
だからこそ自由を奪われ、誰かの意思に従う恵の姿を人一倍 見たくないのかもしれない。
ただ世界を広げたいからって、過去を重くするのは嫌ですね。

今回、その時に鈴花と一緒に囚われていた男性・アルが登場。
彼がいたから鈴花は組織から逃げ出せた命の恩人。

またしても恵のライバルです。
これからはタイプの違うイケメンが毎回登場して、
恵と対決する方式なのかしら…?

しかもアルは恵には立ち入れない過去と事情を共有しているのだ。


扱われる事件や過去は暗いけれども、恵も鈴花も、
親の愛情をたっぷり受けていることが救いですね。

母は優秀な捜査官としての冷徹さを持ちながら、
家族を溺愛している母としての二面性を持つ。
当然、結婚前は他家の人ながら、黒石に通じるものを持ってますね(笑)


あと本書の傾向としては文字が多い気がする。

決して文字で絵を描く量を減らしているのではなく、
文字が多いうえに、華美な絵が重なっている。

ちょっと目に痛いページもあったりなかったりする…。